日本の医療制度の特性について
1 日本の医療制度の特性は、大きく「国民皆保険制度」を採用していること、診療所と病院とは機能ではなく、病床数で区別されており、「フリーアクセス制度」(病院にも外来があり、診療所を通さずに直接病院の外来に行ける)を採用していること、そして、基本的に民間医療機関を中心とした医療提供体制であることが挙げられます。
2 このような特性を備えることになったのは、次のような歴史的経緯によるものと考えられています。日本における近代的な医療制度は、明治7年に文部省から「医制」が発布されたことに始まるとされています。江戸時代には、医療は主に漢方医学によって行われていたのですが、戊辰戦争で多くの侍が鉄砲や刀等で傷を負った場合、漢方医学では対応が難しく、西洋医学の優位性が認識されるようになったことから、明治政府は西洋医学の普及に力をいれるようになったといわれております。明治政府は、一定の教育を受けた医師に免許を与え、免許をもった医師は、一定の設備を備えればどこでも病院や診療所を開設できるようにしました。そして、病院と診療所とは機能ではなく、病床数で区別される制度としましたが、その結果、病院にも外来があり、患者は、直接病院の外来に行くことができることになりました。日本の地形は山が多く、平野が少ないことや急峻な地形であることから長い間道路事情が悪く、自然と狭い範囲に小さな病院が多数開設されることになりました。また明治政府は、当時の帝国主義の時代背景から富国強兵政策をとったことから、社会資本の充実は民間に頼らざるを得なかったこともあって、民間の医療機関中心の医療提供体制となりました。このような歴史的な経緯から日本においては中小の個人病院が多く、その結果病床数もが多いといった特性になったのです。
3 1961年に国民皆保険制度が始まり、病院においては病床規制と施設基準の徹底そして診療報酬の厳格な規制が行われるようになり、医療業界は資本主義を基本とする日本国の中で、社会主義的な色合いの強い特殊な業界といえると思います。診療所もそうですが、特に病院については、様々な規制があって、自由競争が認められていないのが問題の解決を難しくしていると思います。日本においては、急速に少子高齢化が進んでいますが、人口減少の激しい地方では病院の経営が難しくなって来ており、そのことが我が国の当面の医療行政の大きな課題となっていることは間違いないと思います。
4 民間病院が多かったことから、コロナウィルスの感染が拡大した際に、思うようにコロナ病床を確保できなかったこともあって、厚生労働省は、特に中小病院の病床数を減らしたいと考えて様々な施策を試しているのですが、基本的に自由競争が認められない現行の医療制度の中で、どのようにして病床数を減らしながら多くの病院の経営を破綻させることなくソフトランディングさせるかが問題となっています。
5 当面は、厚生労働省は診療報酬を低く抑えて、中小病院が自然と淘汰されても止むを得ないと判断しているのではないかと推察されます。これからますます中小病院の生き残り策が重要となって来ることは目に見えております。当事務所は、そのような中小病院の経営者の良き相談相手となりたいと思っております。
〔文責 片山卓朗〕