医療機関の広告について
地域住民や患者に病院やクリニックのことを知ってもらうために、広告やウェブサイトを作成している医療機関は多いと思います。
医療機関に関する広告は、医療が生命・身体に関わり、極めて専門性の高いサービスであることから、患者等の保護のために、一般的な広告規制に加えて、医療法等の法令により広く規制がされています。また、厚生労働省による医療広告ガイドラインも策定されています。
そのため、医療機関が広告やウェブサイトを作成する場合には、医療法等の法令やガイドラインに沿った内容になっているか注意する必要があります。
医療法等の法令において、医療法で定義する「広告」に当てはまる場合には、禁止される広告の内容(広告禁止事項)が定められており、また、広告できる内容も一定の広告可能事項に限られることになります。
医療法の「広告」とは、次の①、②のすべてに該当するものをいいます。
①患者の受診等を誘引する意図があること(誘引性)
②医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の名称が特定可能であること(特定性)
なお、ウェブサイトについては、医療法の「広告」に該当する場合であっても、一定の条件を満たす場合には、広告可能事項以外の内容も広告することができますが、この場合でも広告禁止事項について広告することは禁止されていますので注意が必要です。
具体的な事例の考え方について、厚生労働省が作成している医療広告ガイドラインに関するQ&Aがありますが、その中からよくある質問について、本記事の最後に載せていますので、ご参照ください。
以下では、①広告禁止事項、②広告可能事項、③ウェブサイトにおいて広告可能事項以外の広告ができる場合について、それぞれ説明します。
目次
1 広告禁止事項
医療機関に関する広告について、医療法等の法令により、次の①から⑥の事項について広告することが禁止されています。
①虚偽の広告
虚偽の内容を広告に示すことが禁止されています。
例えば、「絶対に安全な手術です!」、「どんなに難しい症例でも必ず成功します。」など、絶対に安全な手術等は、医学上あり得ないものですので、虚偽広告になると考えられています。
また、「患者の〇%の満足度」など、データの根拠や具体的な調査方法を明確にせずに、結果と考えられるもののみを表示することは、虚偽広告になると考えられています。
②他の医療機関と比較して優良である旨の広告
他の医療機関と比較して、自らの医療機関が他の医療機関よりも優良であることを示すことが禁止されています。
例えば、「日本一」、「No.1」、「最高」等の最上級の表現を使用することは、客観的な事実である場合でも、禁止される表現に該当すると考えられています。
③誇大な広告
必ずしも虚偽とはいえないものの、事実を不当に誇張して表現していたり、人を誤認させる広告が禁止されています。
例えば、「比較的安全な手術です。」などのように、何と比較して安全であるかが不明なものや、「〇〇手術は効果が高く、おすすめです。」などのように、根拠が乏しいにもかかわらず、特定の手術等の有効性を強調する広告は、誇大な広告になると考えられます。
④公序良俗に反する内容の広告
わいせつ・残虐な映像等や差別を助長するような表現等を使用した広告などが、公序良俗に反する内容の広告として禁止されています。
⑤患者等の主観に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談
例えば、口コミサイトから転載・抜粋した口コミ、患者からのアンケートの記載などが禁止されると考えられています。
⑥治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前後の写真など
いわゆるビフォーアフター写真等の掲載を禁止するもので、例えば、術前又は術後の写真やイラストのみを示し、説明が不十分なものは、禁止されると考えられています。
2 広告可能事項
医療機関に関する広告について、医療法等の法令により、広告できる内容が細かく規定されており、3で説明する一定の条件を満たす場合を除き、これ以外の内容を広告することはできません。
例えば、医療法等の法令により、広告することが認められている主たるものとして、以下のようなものがあります。
①医師又は歯科医師である旨
②診療科名
③病院又は診療所の名称、電話番号、所在の場所を表示する事項、管理者の氏名
④診療日、診療時間、予約による診療の実施の有無
⑤法令の規定に基づき一定の医療を担うものとして指定を受けた病院等である場合は、その旨(例えば、保険医療機関や労災保険医療病院であること)
3 ウェブサイトにおいて広告可能事項以外の広告ができる場合
平成30年の医療法の改正により、それまでは規制の対象外であったウェブサイトも、医療法の広告に該当するものとして、規制の対象となりました。
もっとも、次の①から④の条件(広告可能事項の限定解除要件)を満たすウェブサイトは、2で説明した広告可能事項以外の内容を広告することができます。
①医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトであること
※インターネット上のバナー広告や検索サイトの運営会社に対して費用を支払うことによりスポンサーとして表示されるものや検索結果の上位に表示される状態にしたものは、①の条件を満たさないものと考えられています。
②表示される情報の内容の問い合わせ先として、電話番号、メールアドレスなどが記載されていること
③自由診療について記載する場合、通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する情報が記載されていること
④自由診療について記載する場合、治療等の主なリスク、副作用等に関する情報が記載されていること
4 おわりに
医療機関に関する広告は、医療法等の法令により、広告できる内容と広告できない内容が詳細に規定されています。また、医療法の改正により、以前は適法であった広告やウェブサイトの内容が違法と判断される可能性もあります。
そのため、医療機関の広告やウェブサイトの作成については、弁護士への相談をお勧めいたします。
当法律事務所では、医療機関の広告やウェブサイトの作成について多数のアドバイス実績がございますので、お気軽にご相談ください。
FAQ
①Q:医療機関の広告に、新聞や雑誌の記事を引用することはできますか。
A:記事等の引用部分に記載された内容が、医療法や医療広告ガイドラインを遵守した内容であれば、医療機関の広告に新聞や雑誌の記事等を引用又は掲載することができます。
②Q:「最新がん〇〇療法」、「〇〇治療最前線」といった書籍や冊子等は、広告規制の 対象になりますか。
A:治療法等を紹介する書籍や冊子等の形態をとっていても、書籍等の内容が、特定の医療機関への誘引性が認められる場合(特定の医療機関のみ可能な治療法や、治療法を行う一部の医療機関のみが紹介されている場合等)には、広告に該当するため、医療法や医療広告ガイドラインを遵守する必要があります。
③Q:キャッチコピーや院長等のあいさつ文は、広告できますか。
A:医療法や医療広告ガイドラインで認められた広告可能事項(例えば、「開院〇周年」等)や、 通常医療に関する内容とは考えられないあいさつ文(例えば、「はじめまして」等)を使用したキャッチコピー等については、広告できます。
(広告可能な例)
・「休日・夜間でも来院下さい」
・ 当院は、おかげさまで開院から20年を迎えることができました。これからも、当院のスタッフ一同よろしくお願いします。(病院長:〇〇)
④Q:インターネット上のバナー広告での広告はできますか。
A:バナー広告に医療機関の名称が記載されているなど特定性がある場合は、広告に 該当するため、医療法や医療広告ガイドラインで認められた広告可能事項に限って、広告できます。なお、リンク先の医療機関のウェブサイトは、患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトになりますので、広告可能事項の限定解除要件を満たす場合には、広告可能事項以外の内容を広告することができます。
⑤Q:広告のチラシ等に印刷されているQRコードを読み込むことで表示されるウェブ サイト等は、広告規制の対象になりますか。
A:QRコードを読み込むことで表示されるウェブサイト等は、インターネット上の ウェブサイト等と同様に取り扱い、広告規制の対象になります。
もっとも、当該医療機関等の情報を得ようとの目的を有する者が、当該QRコードを読み込ませることで閲覧するものであり、広告可能事項の限定解除要件を満たす場合には、広告可能事項以外の内容を広告することができます。
⑥Q:患者の希望により配布するメールマガジンやパンフレットは、広告規制の対象になりますか。
A:患者の希望であってもメールマガジンやパンフレットは広告として取り扱われるため、広告規制の対象になります。
もっとも、患者が自ら求めて入手する情報を表示する媒体になりますので、広告可能事項の限定解除要件を満たす場合には、広告可能事項以外の内容を広告することができます。
⑦Q:フリーペーパーに掲載された医療機関等の広告も広告規制の対象になりますか。
A:広告規制の対象になります。
⑧Q:「最新の治療法」や「最新の医療機器」などの表現は、広告できますか。
A:「最新の治療法」や「最新の医療機器」であることが、医学的、社会的な常識の範囲で、事実と認められるものであれば、必ずしも禁止される表現ではありませんが、内容の裏付けとなる根拠を示し、客観的に実証できることが必要となります。
⑨Q:「最先端の医療」や「最適の医療」などの表現は、広告できますか。
A:「最先端」や「最適」の表現は、誇大広告に該当するため、広告できません。
⑩Q:「最良の医療」や「最上の医療」などの表現は、広告可能でしょうか。
A:「最良」や「最上」の表現は、他の病院又は診療所と比較して優良である旨の比較 優良広告に該当するため、広告できません。
⑪Q:美容医療等の自由診療において、「プチ~」などの短時間で行える、身体への負 担が比較的少ない、費用も手軽である、といったような印象を与える表現は、広告できますか。
A:提供する医療の内容等について、事実を不当に誇張した表現や、誤認させるおそれがある表現は、誇大広告に該当する可能性があります。
⑫Q:費用を太字にしたり下線を引くなどして強調した表現は、広告できますか。
A:医療広告ガイドラインにおいて、費用を強調した品位を損ねる内容の広告は、厳に 慎むべきものとされておりますが、費用に関する事項は、患者にとって有益な情報の 1つであり、費用について、分かりやすく太字で示したり、下線を引くことは、差し支えありません。
もっとも、費用を前面に押し出した広告は、医療広告ガイドラインにおいて、品位を損ねるものとして、医療に関する広告として適切ではなく、厳に慎むべきとされています。
⑬Q:提供する医療の内容として、「2週間で90%の患者で効果がみられます。」のような表現は、広告できますか。
A:治療の効果に関する表現は広告できません。治療効果については、個々の患者の 状態等により当然にその結果は異なるものであり、効果について誤認を与えるおそれがあることから、広告できません。
⑭Q:従業者の写真は、広告できますか。
A:医療法や医療広告ガイドラインなどにより広告が可能とされた事項については、文字だけでなく、写真、イラスト、映像、音声等による表現が可能です。
(広告可能な例)
・従業者の人員配置として、病棟又は診療科の従業者の人数、配置状況として写真を掲載すること
・ 医療従事者に関する事項として広告可能な氏名、年齢、性別、役職及び略歴を写真とともに掲載すること