コラム

インターネット上の誹謗中傷に対する対応策

近年、インターネット上の誹謗中傷は、大きな社会問題となっています。口コミサイトやSNSなどで、「●●病院で医療ミスがあった」、「●●クリニックの医師は、ヤブ医者だ」など、ご自身が経営・勤務している病院やクリニックを誹謗・中傷する書き込みがなされた経験はないでしょうか。
インターネット上の投稿は、直ちに世界中で閲覧可能となることから、早急に対応する必要がありますが、他方で、誤った対応をした場合、その誤った対応がさらに拡散され、より悪い風評が広まってしまう危険性があります。そのため、インターネット上の誹謗・中傷に対しては、迅速かつ適切な対応を取る必要があります。
インターネット上の誹謗・中傷に対して取り得る方法は、大きく分けて、①削除請求、②発信者情報開示請求、③刑事告訴の3つがあります。

1 削除請求
インターネット上で、病院やクリニックへの誹謗・中傷が行われている場合、まず、考えられる方法は、誹謗・中傷する投稿や記事を削除することにより、病院やクリニックの悪評が広がるのを防ぐことです。
このような投稿や記事を削除する方法として、①任意交渉による方法と、②裁判手続による方法の2つがあります。
(1) 任意交渉
投稿されているサイトで案内されている「お問い合わせ」のフォームなどからのアクセスや、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が策定した、「侵害情報の通知書 兼 送信防止措置依頼書」の送付により、サイト管理者やサイトを運営する本社に直接連絡を取り、問題となる投稿や記事の削除を請求することが考えられます。
サイト管理者や本社が、投稿が違法であることが明白である、または、利用規約違反と判断した場合には、投稿が削除されます。
(2) 裁判上の削除請求
任意交渉での削除が難しい場合、裁判上の削除請求(削除仮処分)を行うことになります。裁判上の削除請求では、投稿により権利が侵害されていること、問題としている投稿が自身の経営・勤務するクリニックや病院のことであることなどを主張して、申立てをすることになります。
削除の対象となるのは、個別の投稿になるため、原則として、掲示板のスレッド全体や、SNSアカウントの全体を対象とすることはできないとされています。
削除仮処分の申立てが認められる場合、担保を提供し(30万円が標準とされています。)、削除決定がサイト管理者に届くと、おおよそ1~2週間で、投稿が削除されることが一般的です。

2 発信者情報開示請求
投稿者に対し、投稿を行ったことに対する損害賠償請求などの措置を採る場合には、投稿者の特定のために必要となる情報の開示を請求することになります。
投稿者の特定のために必要となる情報の開示は、サイト管理者が任意に開示する可能性が乏しいことから、裁判上の手続によることが多いと思われます。

投稿されたサイトが、住所・氏名等を登録して利用されるサイトの場合には、サイトを運営している管理者に対し、投稿者の住所・氏名の開示請求を行うことになります。
他方、匿名で投稿できるサイトのように、住所・氏名等の登録が不要なサイトの場合には、サイトの管理者に対し、まず、IPアドレス等の開示請求を行い、開示されたIPアドレス等から判明した接続プロバイダ(経由プロバイダ)に対して、投稿者の住所・氏名の開示請求を行うことになります。また、接続プロバイダには、ログの保存期間があり、保存期間を経過すると、開示請求を行ったとしても、住所・氏名の開示を受けられなくなることから、ログの保存期間が迫っている場合には、接続プロバイダに対し、ログの保存請求も併せてすることになります。

3 刑事告訴
投稿内容の悪質性が高く、刑法上の名誉棄損罪、侮辱罪などに該当する場合には、投稿者に対する刑事告訴を行うことが考えられます。
投稿者が分からない状態であっても、刑事告訴を行うことはできますが、投稿者が分からないと、警察も積極的には対応しないため、刑事告訴を行う前に、投稿者の特定や発信者情報開示請求をしておくことが良いと考えられます。
なお、名誉棄損罪と侮辱罪は、犯人を知った日から6か月以内に告訴する必要があるため、発信者開示請求により、投稿者が判明した場合、投稿者を特定する情報の通知が届いた日から6か月以内に告訴しなければならないことに注意が必要です。

4 まとめ
以上のように、インターネット上の誹謗中傷に対しては、迅速かつ適切な対応を取る必要があります。また、採るべき手段の選択についても、法的知識が必要となります。
弊所では、インターネット上の誹謗中傷についてもご相談をお受けしております。病院やクリニックに対するインターネット上での誹謗中傷にお困りの方は、ぜひご相談ください。