事業承継のアドバイス

 

病院の事業承継について

医療機関の相続における特殊性の一つ目は、医師でなければ医療機関の相続ができない点です。 
医療以外の分野では、後継者問題に資格の制限が課せられる場面が少なく選択肢が広いのですが、医療機関の相続では、相続できるのは相続人であり、且つ医師でなければなりません。
さらには、診療科目によっても、相続できる場合が限られます。たとえば産婦人科の診療所を相続する場合、相続人は産婦人科の医師であることが望ましい状況です。
医療機関の相続における特殊性の二つ目は、相続財産の大部分を占めるのが病院や診療所の施設で、他に転用が難しいということです。病院や診療所は、医師にとっては価値がありますが、医師でない相続人にとっては、価値がありません。むしろ自分で経営できない病院や診療所の相続が負担になっている状況です。
相続人は、医師である人もいればそうでない人もいます。そのような相続人間の利害を調整をすることの難しさは、誰が考えても容易に理解できるのではないでしょうか。
私たちは、これまで事件をとおして、そのような困難な場面を多数見てきました。相続人間に争いごとを起こさずに、病院を事業承継するためにも当事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。

Business succession 01
病院の事業再生について

 

経営の自由度が少ない病院経営

医療機関の経営が悪化する原因には、いくつかのことが考えられますが、経営が悪化すると、次第に資金繰りが苦しくなります。資金繰りが苦しくなる理由の一つに、収入に比べて支出が多いことがあります。逆に、支出に比べて収入が少ないと言い換えてもよいでしょう。このような状況を改善するためには、収入を増やすか、経費を圧縮するか、どちらも実施するということになります。

経営の自由度が少ない病院経営

医療機関の問題は、一般の企業のように営業の強化や、広告を増やしたり、リストラすることが難しいことです。診療報酬は国民皆保険制度の下、診療の種類によって報酬の額が決められているので値下げや値上げもできません。その上、医療機関の場合には、施設ごとに必要な配置人員が定められていることが多いので、思うように人件費の圧縮もできません。
医師や看護師などの医療従事者は、恒常的に不足気味で、施設基準を満たすための人員を確保するためには、ある程度の給与水準であることも求められ、経営の自由度が少ない状況です。

収入が安定している病院経営

病院経営は、一般の企業に比べて収入が安定しています。好景気の場合でも不景気の場合でも、病人は発生します。
病院は、病床規制があり、医療圏のなかでの病院の乱立が抑制されていますので、だまっていてもある程度の患者が集まるようになっています。それと、一般の企業と比較して、売掛金の回収リスクが格段に少ないのです。医療機関の収入では窓口収入を遅滞する人は少ないですし、保険収入については遅滞するようなことは考えられません。要するに医療機関は、当たり前のことをやってさえいれば、経営が成り立つような仕組みになっているのです。

病院経営を苦しめるのは過剰な設備投資と放漫経営

それでは、どのような場合に、経営が悪化するのでしょうか。
まず、過剰な設備投資、次に放漫経営が原因であることが考えられます。
過剰の設備投資や放漫経営によって、経営の規模に比較し、借金が多いことで資金繰りが厳しくなっていることが多いのです。借金がそれほど大きくないのに、資金繰りが厳しいというのであれば、医療機関の規模に比較し、患者数が少ないことを意味します。その場合には、経営を改善するために患者を増やす工夫をしなければならないのですが、その医療機関が医療圏の需要に対応できていない可能性もあります。
改善策としては、急性期の病院からリハビリ病院へ変更するとか、診療科目の見直しや施設の増改築など、需要への対応のために大幅な経営改善策が必要となります。それには資金も時間も必要となります。その場合に自力で改善できればよいのですが、M&Aが必要な場合も多いと思います。

Business succession 02
個人病院診療所の場合
経営の自由度が少ない病院経営

 

個人病院・診療所の場合、医療機関を相続する相続人 が相続する財産は、病院・診療所の施設と医療に関連する債権・債務です。具体的には、病院・診療所の土地建物、レントゲンやCT等の医療機器、 医薬品などの棚卸資産、診療報酬の未収分などが相続する資産の代表的なものであり、病院・診療所の土地建物を取得するための借入金、医療機器のリース、運転資金や従業員への退職金などが相続する負債の代表的なものとなります。 
個人病院・診療所の相続の場合には、医師の資格を有する相続人に、上記の資産・負債を相続させ、他の相続人には、それ以外の資産を相続させることになります。
医療に関連する資産以外に相続財産が沢山ある場合には、医師ではない相続人に医療関連する資産以外の資産を相続させることができるのですが、他に目ぼしい財産がない場合には、医師でない相続人に不満がでることが問題です。

Business succession 03
医療法人の場合
医療法人と株式会社の構造の違い

まずはじめに、ここでいう医療法人は、平成19年4 月1日の前に設立された社団医療法人のことを指します。 
医療法人の場合、相続人が取得する相続の対象は、個別的な資産・負債ではなく、医療法人の出資持分という抽象的な資産となります。
医療法人の出資持分は、一般営利企業の場合の出資持分である株式とは全く違います。まず、経営権と出資額との関連性がありません。株式の場合には株式数の大きい株主が会社の経営権を取得で きますが、医療法人の場合には、出資額にかかわらず社員一人一人の経営に関与できる権利は同じです。一般的に「社員」という言葉は、会社の従業員のことを指しますが、ここでいう「社員」とは社団の構成員という意味で株式会社の「株主」に相当します。株式の場合には 株主総会における議決権の数は、所有する株式の数に比例して大きくなりますが、出資持分の場合には、いくら大きな出資持分を所有していたとしても一人一票となります。全く出資をしていないにもかかわらず、社員となることも可能ですし、出資持分をもっていても、社員ではない人がいることもあり得ます。  
また、株式の場合には、会社の業績によって、配当を受けることができますが、医療法人の場合、配当が禁止されております。いくら医療法人の業績がよくても、出資持分を持っているだけではなんの利益も受けられないのです。  

医師でない相続人はどこからも利益を得られない。

医師である相続人は、医療法人の出資持分を相続したら、理事長に就任して医療機関の経営権を取得し、理事長報酬として医療機関から収入を得ますが、医師でない相続人は、基本的に医療機関から直接収入を得る方法はないのです。問題は、そのように持っているだけではなんの利益も受けることができない出資持分であっても、相続税の計算の上では、相続財産として相続税の対象となることです。つまり、医療法人の出資持分を相続した相続人には、医師として医療機関の経営に関与できる相続人と同じように相続税の負担が生 じる可能性があるのです。医療法人の相続による事業承継を考える際には、 この点にも充分配慮しておく必要があります。