コラム

事例紹介

事例紹介

配偶者以外に、
医師である相続人を長男A
医師ではない次男B
長女C

4人の相続人がいる場合で、
医療法人の資本金の額1200万円
医療法人の出資持分の評価額
1億2000万円とします。

この医療法人の資本金は1200万円ですから、資本金1万円が10万円の価値があることとなります。

被相続人の遺産が他に存在しないと仮定した場合、次男Bと長女Cの遺留分の額は、次のとおり、それぞれ1000万円となります。
                                  
・ 配偶者の法定相続分=2分の1
・ それぞれの子の法定相続分=2分の1÷3=6分の1
・ 配偶者の遺留分=2分の1÷2=4分の1
・ それぞれの子の遺留分=6分の1÷2=12分の1

遺産総額×遺留分=1億2000万円×12分の1=1000万円

この医療法人が一般の持分の定めのある社団医療法人であり、かつ、定款によって出資持分を相続で取得した場合には、当然に社員となる旨が定められていたとします。

このような状況の下に、被相続人が「医療法人の出資持分の全てを長男Aに相続させる」との遺言を残して死亡したとします。

この場合で配偶者である母親が遺留分減殺請求をせずに、次男Bと長女Cのみが長男Aに対し、遺留分減殺請求をしたとしたならば次男Bと長女Cは、それぞれ、1000万円に相当する出資持分を相続で取得したこととなります。

本件では、資本金1万円が10万円の価値があるのですから、それぞれ100万円の出資持分を取得することとなります。
それに加え、次男Bも長女Cも社員たる地位を取得することとなります。
社員が外に誰もいなかった場合には、次男Bと長女Cが結託して社員総会を開いた場合、次男Bの知り合いの医師Xを理事長に選任し、医療法人の経営権を握ることも可能ですし、次男Bと長女Cがともに退社をし、医療法人に対し、それぞれ1000万円の出資持分の払い戻しを請求することも可能です。

その場合、医療法人は、土地建物や医療機器を換金する訳にはいきませんので、金融機関から借入をしたり、運転資金をやり繰りしたりして、合計2000万円を捻出する必要に迫られます

解決策

同じ相続人の場合でも、出資額限度法人で、かつ、相続によって当然に社員とはなれず、社員となるためには、社員総会の承認が必要である旨の定款の規定があったとします。
この場合、被相続人が存命中に長男Aを医療法人の社員としておいた上、上記と同じように「医療法人の出資持分の全てを長男Aに相続させる」との遺言を作成しておいたとします。

この場合、次男Bと長女Cが長男Aに対し、遺留分減殺請求をしたとしても、先の事例と同じように、被相続人の所有していた出資持分のうち、額面で各100万円の出資持分を取得するに過ぎず、かつ、出資額限度法人の出資持分なので、医療法人に対し、各100万円、合計でも200万円の払い戻し請求ができるに過ぎません
社員たる地位も相続で取得することはできませんので、次男Bも長女Cも社員にはなれず、したがって、社員総会に出席することもできません。次男Bと長女Cにしても、たった100万円のために紛争を起こすことには心理的な抵抗もありますので、遺留分減殺請求を行使することを断念する可能性は大きいと思います。

被相続人は、次男Bと長女Cにも遺留分を侵害しない範囲で医療法人の出資持分を相続させる旨の遺言を作成しておくのも一つだと思います。その場合には、上記の事例で、つぎのような遺言をすることになります。

相続人長男Aには、医療法人の出資持分のうち12分の10を相続させる。相続人次男Bと長女Cには、医療法人の出資持分のうちそれぞれ12分の1を相続させる

次男Bと長女Cは、このような遺言があった場合には、遺留分減殺請求はできませんし、結果的には、上記の遺留分減殺請求をした場合と同様に、医療法人に対し、各100万円の出資持分払い戻し請求をする以外に方法はないこととなります。

ただ、このような遺言をすることにより、次男Bと長女Cに出資金払戻請求権を超えた相続税が課税される可能性がありますので、その点に配慮しておく必要があります。
相続税を課税する前提としての評価額については、出資額限度法人であっても、一般の持分のある社団医療法人の場合と同じように、医療法人の純資産価額を基本として、出資持分の割合に応じて評価されるからです。
このように法人の純資産価額をもって評価する方法を純資産価額方式といいます。

持分のある社団医療法人の出資持分の相続税評価については、純資産価額方式だけではなく、医療法人の規模に応じて、類似業種比準価額方式による評価額も加味されることが認められておりますし、相続税を課税する場合には、一定の基準により基礎控除額が定められておりますので、必ずしも出資金払戻請求権を超えた相続税が課税されるとは限りませんが、その可能性は無視できません。

相続税の負担ばかり負わされた相続人がその不満を医療法人を相続した相続人(上記の例では長男A)にぶつけることは容易に想像できます。それでは、せっかく親族間の争いを避けようと遺言をした意味がなくなってしまいます。このような遺言を作成する場合には相続税の課税の有無やその額について、慎重に検討しておく必要があると思います。

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