2024年診療報酬改定が医療法人の経営に与える影響
1 診療報酬とは
診療報酬とは、医療機関が患者に対して提供した医療サービスに対して支払われる対価です。日本の医療制度において、診療報酬は、国が定める基準に基づいて決められ、自己負担分(原則3割)は患者が支払い、残りは公的医療保険(健康保険、介護保険など)などを通じて支払われます。
診療報酬は定期的に改定され、これにより医療機関への支払い額が調整されます。診療報酬改定は、医療制度全体の効率化や医療従事者の待遇改善、患者へのサービス向上を目指して行われます。改定は、通常、2年に一度行われ、改定率は予算編成により内閣によって定められ、個々の価格は、諮問機関である中央社会保険医療協議会の議論を踏まえて厚生労働大臣が決定します。診療報酬は、医療機関の収益の主要な部分を占めており、これが医療法人や病院の経営に大きな影響を与えます。診療報酬の改定は医療業界において非常に重要な事柄とされています。
2 2024年の診療報酬改定の概要
2024年の診療報酬改定では、
①人材確保・働き方改革等の推進
②地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
③質の高い医療の推進
④効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上
が大きなテーマとなりました。
2024年の診療報酬改定は、全体で0.88% の増額となっています。この改定率は、医療の質の向上や医療従事者の処遇改善などを目的として設定されたものです。これは、近年では比較的大きな引き上げであり、医療機関にとっては一定の安定をもたらすことが期待されます。前回の改定(2022年)は、ほぼ横ばいかマイナス改定だったため、今回のプラス改定それ自体は医療機関の経営にとって歓迎すべき内容となっています。
一方で、一部、減額方向での改定もされています。例えば、生活習慣病関連の報酬については、「効率化・適正化」のために算定要件の厳格化が図られ、管理料や処方箋料は 0.25%引き下げされています。また、在宅医療についても、収入の柱となる報酬が引き下げられています。また、医療従事者の賃金アップへの対応、医療DXの整備なども求められています。
なお、通常、診療報酬の改定は4月1日に施行されますが、2024年については、改定に伴う準備に時間を要することから医療機関の負担を考慮し、6月1日に施行されています。
3 改定が医療法人経営に与える影響
0.88%の増額は、過去数年のマイナス改定やほぼ横ばいの改定に比べて大きなプラスとなります。特に、経営が赤字であったり、厳しい財政状態にある法人にとっては、診療報酬の増額が負担軽減につながる可能性があると期待されています。
しかし、生活習慣病関連や在宅医療など、一定の分野では、減額とされる改定もあります。診療報酬の引き上げ分または引き下げ分が、それぞれどの程度実際の収入に反映されるかは、各医療法人の運営状況や地域性によって異なります。
4 2024年診療報酬改定の評価
0.88%の増額は、近年では比較的大きな改定率ですが、医療法人によってその評価は異なります。一部の法人は、診療報酬増加により安定的な収益確保が可能となるため前向きに受け入れています。一方で、患者数の減少や地域的な需要の低迷に直面している法人にとっては、増額分だけでは十分に経営改善が図れず、また、減額分やその他の対応に要する労力の方が、影響が大きいという意見もあります。開業医に対するあるアンケートでは、2024年度診療報酬改定については、マイナスの影響の方が大きいとの回答が7割以上に上る結果となったものもあるようです。
今回の改定は、新設項目も多く、医療機関の経営にあたっては、その影響を慎重に見極める必要があるものとなっています。2024年の診療報酬改定を受けて、医療法人はより一層の経営改善に取り組む必要があります。効率的な運営や、ICT活用による業務の効率化、在宅医療や予防医療の拡充、患者満足度の向上など、今後の経営の方向性を見定め、柔軟に対応していくことが求められます。