未払診療報酬の回収

 

高額に上がる回収できない診療報酬

クリニックの受付にて、患者が「保険証を忘れたので取りに帰る」、「そんなに高いと思わなかったから現金の持ち合わせがない」と言って病院を出たまま戻ってこなかったという経験はないでしょうか。このような未払が積み重なることで、回収できなかった診療報酬が実は高額に上っていたということもあり得ます。

Statute of limitations
時効について

未払の診療報酬を請求しないまま一定期間放置していると、診療報酬を支払うように請求する権利(診療報酬債権)がなくなってしまいます。

ここにいう「一定期間」を時効期間と言いますが、診療報酬については従前、時効期間は「3年」と定められていました(旧民法170条1号)。

しかし、法律が改正されたことにより、令和2年4月1日以降に診療行した分の診療報酬債権については、原則として、時効期間は「債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年間」(民法166条1項1号)になりました。

※消滅時効が5年になるのは、改正後の法律が施行された日(令和2年4月1日)以降に生じた債権のみです。令和2年3月31日以前の診療分については、改正前の法律が適用され、時効も3年となるので注意が必要です。

診療報酬について、「権利を行使することができることを知ったとき」とは、患者に対して診療報酬を請求できる時点、すなわち、その患者に対する診察を行った日です。

よって、令和2年4月1日より前の診療分については診療日から3年間が経過した日、令和2年4月1日以降の診療分についてはその診療の日から5年間が経過した日に時効となり、診療報酬請求権が消滅してしまうこととなります。

Statute of limitations
時効期間の延長

時効期間を過ぎてしまうと、せっかく行った診療について、対価の支払いを要求できなくなってしまうとご説明いたしましたが、もし時効期間ギリギリで請求漏れや未払が発覚した場合であっても、時効期間を延長することができる場合があります。

例えば、債務者である患者が「報酬全額を支払います」と支払義務を認めたり、診療報酬の一部を分割金として支払ったりすると、時効期間がリセットされ、その時点から新たに5年間は時効が完成しないことになります(民法152条)。ただし、このような場合であっても、後に争いになることを避けるため、患者が支払う意思を示したことを証拠として残しておかなければなりません。 また、診療報酬を請求する裁判を起こすと、裁判が終わるまで時効期間が一旦停止されるだけでなく(民法147条1項1号)、勝訴判決が得られた場合には、時効期間が10年延長されることとなります(民法169条1項)。

内容証明郵便等を送って任意に支払いを求める方法でも、6か月間は時効期間の計算がストップする(時効期間が6か月延長される)という効果はあります(民法165条)。しかし、この延長が認められるのは1度だけであり、6か月経過後、何度内容証明郵便等で支払いを求めても、時効期間が延長されることはない点には注意が必要です。 そのため、任意に支払われる様子がない場合には、訴訟提起等他の方法を検討することが重要です。

以上より、時効期間までギリギリの債権があるといった場合には、上記のような対策を早期に検討する必要があります。

Collection means
実際の回収手段について

早期に支払いを求める必要があるといっても、患者本人への請求は、簡単に成功しない場合もあるかと思います。 例えば、電話で督促しようとしても電話がつながらなかったという経験や、支払いを求める内容の通知書を送っても返答がなかったという経験がある方は多いかと思います。保険証に書いてあった住所を訪ねてみたり、保険証に書いてある会社に電話してみたりしようか悩んでしまうこともあるかもしれません。

このような場合に取り得る手段としては、未払が続くようであれば法的措置に移行することを検討している旨記載した書面を送付したり、実際に訴訟提起をしてしまうことも考えられます。

なお、通常の訴訟よりも簡易な裁判所を通した回収方法として、少額訴訟や支払督促といった方法で回収する方法もあります。ただ、簡易な手続きであるといっても、実際に制度を利用する場合には、手続の内容等を調査する必要がある場合もあるかと思われますが、調査等に時間をかけすぎると、時効の問題以外にも、債務者の経済状況が悪化したことを理由に回収できなくなるといった事態が生じるリスクがあります。また、裁判手続きに移行しない場合でも、任意での取り立てに熱心になるあまり、違法な取立て行為に及んでしまうリスクも否定できません。

そのため、弁護士に未払報酬の回収を依頼することも1つです。電話や手紙での督促が功を奏しない場合に割かなければならない人的資源や、精神的負担といった損失を軽減することも期待できる上、違法な債権の取り立てにより別の問題が生じるリスクを避けることが可能です。また、弁護士から通知を送ることにより、任意の支払いを促す効果が生じる場合もあります。

Collection means
診療報酬回収はご相談ください

弊所は、多数の医療機関において顧問弁護士を担当させていただいており、医療分野における法的交渉・訴訟対応に関して多くの経験・実績がある法律事務所です。

診療報酬回収についても、自力での回収がどうしても効を奏しない、回収できる報酬債権なのか分からない、といったご相談をいただき、内容証明郵便の送付や少額訴訟の提起により、本来支払われるべき診療報酬を獲得した実績が多数あります。 1人1人に対する請求額は少額にとどまる場合であっても、報酬未払の状態にある患者が複数いる場合には、未払の合計が多額となる場合もあり、弊所においてご対応したケースでは、数百万円近くの未払報酬の回収に成功したケースもございます。

医療費回収のために動いているがなかなか支払ってもらえない、請求にかける時間や余裕がないと悩んでいる方は、ぜひ一度弊所へご相談ください。 また、レセプトの際に点数計算ミスや加算漏れがあった場合については、患者本人に対して請求する場合とは時効期間の数え方が異なる場合もありますので、時効が成立しているのか分からないといった方や、時効期間がギリギリになってしまっているのではないかと焦っている方も、お気軽にご相談いただければと思います。

現状どのような対処を取るのが最善なのか、一緒に考えましょう。